オンラインだからこそできた“三社三様”のユニークな研修講演-LGBT ファイナンス
金融機関で働くLGBTQ+社員を支援し、コミュニティの意識向上を目的として設立されたLGBTファイナンス。東京レインボープライド(以下「TRP」という)との関わりも長く、前身団体のパレードから数えると協賛は12年目ともなる。
2020年はオリンピックイヤーでもあり、記念すべき年として熱気が高まっていた矢先にコロナ禍が発生。東京レインボープライドもリアルイベント中止を余儀なくされ、オンラインのみの開催となった。
「単に協賛する以上に参加する各社のメンバーの方々はとても楽しみにしており、今年はより良いブースを目指そうと意気込んでいたのでとても残念でした。
しかしながらLGBTファイナンスは、現在のTRPの前身の団体からさかのぼると2010年頃から毎年協賛を継続してきています。その灯を絶やさないためにも、協賛内容を企業研修講演に絞って、しかも全く初の試みであるオンラインでの開催によりイベントを継続しようと踏み切りました」(日興アセットマネジメント 赤尾さん)
そこで、LGBTファイナンスは、2020年から2021年にかけて3回のオンライン研修講演を実施。それぞれ別の加盟している会社の担当がテーマから決めたため、様々な視点からの研修となった。
オンラインでの開催は初めての試みで、講師にとっては戸惑いもあったというが、オンラインならではの強みもあった。各回平日に行われたものの、参加者は毎回200名以上、20社を越えるイベントとなり、多くの参加者から事後アンケートでも好評を得たという。
この記事では3回のオンライン研修講演の概要について紹介する。
第1回「新型コロナウィルス感染症対応により、LGBTQ当事者の方々にとってどんな課題に直面しているか、職場や社会の周囲の人々にどんなことをしてほしいかあるいはしてほしくないか」(日興アセットマネジメント)
「新型コロナウィルス感染症の蔓延で、これまでに日常が全く予想もできない非日常に変わりました。
私たち金融機関の職場でもLGBTへの理解を深める絶好の機会であった東京レインボープライドの行事がなくなる中、私たち金融機関では多くの仕事を在宅勤務に切り替えて業務を継続してきました。一方で、こうした厳しい環境の中でもLGBTへの理解を深めるために、オンラインでの研修という新しい試みにチャレンジした第1回の研修です」(日興アセットマネジメント 赤尾さん)
今でこそオンライン講義は馴染みのあるものへとなったが、新型コロナウィルスの流行によって日に日に変わる状況の中で、オンラインへの切り替えは手探りで行われ、試行錯誤を繰り返したという。
「オンラインという参加形態に講師の杉山文野さんには戸惑いもあったかと思いますが、むしろ一人一人に杉山さんが語りかけていたように受け止めてもらえたように思います」(赤尾さん)
このスタイルでの研修に8割以上の方が賛同し、今回の内容を9割以上の方が役に立ったと回答したという。
第2回「お子様がカミングアウトしたらどうする?トランスジェンダーの息子と母親の対話」(ゴールドマン・サックス)
研修講演第2回のテーマは、『もし自分の子供がカミングアウトしたらどうするか』を中心に、トランスジェンダー当事者・杉山文野さんと、トランスジェンダーの息子を持つ母親の小林りょう子さんの対談を配信。
対談前には司会者である当事者の社員自ら死別した両親にカミングアウトできなかった経験を語り、カミングアウトされる親側にも知識が必要であること、しかし現状の日本ではその知識を得る機会がなく、当事者の子供の側から理解や知識を深めようとすること自体が意図しないカミングアウトになってしまうというジレンマを訴える場面も。
「FtMである杉山さん、そしてちょうど杉山さんの親世代にあたりかつトランスジェンダーの息子さんを持つ小林さんに講演して頂く事で、当事者の声を伝えるだけでなくその親の視点も共有する事ができ、多くの社員にとってより身近な話としてとらえて貰えたかと思います。
私自身も社内でもオープンにしているレズビアンですが、特に小林さんの考え方や子供からカムアウトを受けた時の話には感銘を受けました。フェミニストカウセリングの背景もあっての事と伺いましたが、自分の親も小林さんのような対応だったらもっとスムーズに話が出来ていただろうと思いました」(ゴールドマン・サックス 篠原さん)
第3回「カミングアウト・ジャーニー」(バークレイズ)
研修講演第3回のテーマは、『カミングアウト・ジャーニー』。トランスジェンダーとゲイ当事者である2名の講師のカミングアウト体験をベースにオンライン研修講演を英語にて開催しました。
「これまでの2回は日本語での開催であったため、参加できなかった各社多数の英語スピーカーから、『研修講演を受講し、日本特有のLGBTQ+の状況や問題を理解したい』という強い要望がありました。そういったコメントを受け、オンライン研修講演を英語にて開催したいという思いが募り、バークレイズにて第3回目のオンライン講義を主催することとなりました。
主催者側として東京レインボープライドと連携して英語の資料作成、Q&Aの通訳・翻訳対応など、大変な面もありましたが、LGBTファイナンスメンバーのサポートもあり、無事に講演を完了でき、英語講演開催という新たな講演の形を作り上げることに成功したと思っています。
トランスジェンダーとゲイ当事者である2名の講師のカミングアウト体験から、周囲のカミングアウトをしやすい環境づくりや、アウティングにあたる行動に留意すべき点などに関するアドバイスもあり、有意義な内容となりました」(バークレイズ 市川さん)
日本特有のLGBTQ+の状況や問題を含んだ内容の講義は、英語スピーカーからの反響も大きく、ポジティブなフィードバックも多かった。また、LGBTファイナンス各社内でのプロモーション効果も大きく、1社で30名以上参加した会社もあったそう。
もっと声を届けるために
「この状況での試行錯誤をしながらの新しい試みでしたが、やってみると
具体的なコメントも数多くもらえ、開催した価値が多いにあったと思います。
一方で、まだまだ声が届いていない人たちも多くいるので継続的に、手を変え品を変え取り組んでいく必要があるとも感じています。実際、昨年にはLGBTファイナンス加盟の1社が毎年10月はアライ月間としてイベントをグローバルに開催しているという話が発端となり、アライを新しいキーワードに加盟金融機関のシニアアライをパネリストに迎えたLGBTアライサミットが実現しました。LGBTアライサミットでは、「アライの意味や重要性」「アライとして何が出来るのか」「マネージャーとしてのアライ」「企業にとってLGBT+について取り組む事の意味」等について、参加企業のうち6社の各代表がパネリストとして参加し意見を交換しました。」(赤尾さん)
2021年はTRPとの同様な研修講演を3回予定しているほか、レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)や、ReBit(Diversity Career Forum 2021)への協賛を予定しているそう。
LGBT ファイナンスは、2021年の東京レインボープライドのオンラインブースにも出展している。今年の協賛社は19社。錚々たる金融機関の顔ぶれをぜひチェックしてみてはいかがだろうか。